【定期コラム】 総合ユニコム発刊の季刊誌「レジャーホテル」に “キャッシュフローを維持するための戦略的な税務対策”と題して連載しているコラムの第二回目です。 ラブホテル・レジャーホテルの運営にご参考になれば、幸いです。 【2016年1月からスタートする「マイナンバー制度」とは】 ●「マイナンバー法の概要」 日本に暮らす約1億3,000万人に、国が12桁の数字(マイナンバー)とICカード(個 人番号)を無償配布する制度がはじまります。 制度のスタートは2016年1月からですが、個人に割り当てられる番号の通知は、今年10月からはじまります。 マイナンバー制度の最大の目的は、「異なる分野に属する情報を照合してこれらが同一の者に係るものであるかどうかを確認することができる」点にあります。すなわち、社会保障、税及び災害対策の分野における行政運営の効率化を図り、国民にとって利便性の高い、公平・公正な社会を実現するための社会基盤の整備を図ること等を目的として導入された制度であり、住民票に記載されている者に対し「個人番号」、法人等に対し「法人番号」がそれぞれ付番されることとなります。 ●「マイナンバー制度のメリット」 マイナンバー制度が開始されると、どのようなメリットがあるかというと、行政としては、何よりも事務の効率化があげられます。一方、利用者側としては、行政手続きの際の手数料や待ち時間の減少、本人確認の簡素化、記載事項の簡素化、添付書類の不要化があげられます。添付書類の省略が可能な例としては、国民年金保険料の免除、児童扶養手当の支給、高額療養費の決定等において所得証 明書等の添付が省略。また税務関係においても、住民票の写し等の添付が不要になります。税務当局では、いままで個人情報を把握するときに、「氏名・住所・生年月日」をキーとして名寄せをしておりましたが、同姓同名や旧字や住所変更など、手間がかかっていたところが、かなりの事務効率化になると思われます。 先般、日本年金機構で個人情報の漏洩事件が起きました。流出したのは対象者の基礎年金番号、氏名、生年月日、住所の4つの情報などです。これだけの漏洩事件があると、「マイナンバーを扱いはじめるともっと影響が大きい漏洩が起きるのではないか」との心配があると思います。 しかし、今回の漏洩は、日本年金機構の個人情報の取り扱いに不備があり、以前からその課題が指摘されず、対策も取られないまま放置されていたために起きたといわれています。もし日本年金機構がマイナンバーを取り扱っていたら、このような漏洩事件は起きないか、被害が少なくすんだとも言われています。なぜなら、マイナンバーの取り扱いは非常にルールが厳しく、その取り扱いを厳しく 監督する組織もあります。 ●企業としての実務対応 企業は、すべての従業員からマイナンバーを取得する必要があります。本人確認は、身分証の確認を行なう「本人実存性の確認(身分確認)」とともに、通知カードおよび個人番号カードによって取得した番号が正しいかどうかの確認を行なう「番号真正性の確認」が必要となります。2つの確認を同時に行なうため、制度施行後すぐには慣れない作業のために手間取ることも考えられます。しかし、この本人確認は、マイナンバーを取得するためにはどうしても行なわなければならない手続きです。 企業が本来やらなければならないことは、下記の3つのみになります。 ① 従業員や扶養親族、支払先など、各種帳票に記載が必要となる対象者のマイナンバーを集める ② 集めたマイナンバーを保管する ③ マイナンバーの記載が必要な帳票にマイナンバーを記入する ●具体的な業務内容 では、どのような業務において対応が必要なのか、詳細をみていきます。企業は、給与厚生業務として次のような事務対応を行なっております。 ① 従業員の入社手続きに関する業務 ② 従業員の退職時に発生する業務 ③ 結婚や出産などの家族構成の変更に関する業務 ④ 勤務地変更に伴う業務 これらの業務については、何らかの形で税や社会保険に伴う手続きが発生するため、マイナンバー対応が必要です。 ●マイナンバーによる影響 マイナンバー制度がはじまると、内緒でやっている副業が会社にバレるのではないか。と言われていますが、確かにバレやすくなることが考えられます。個人番号を通して、お金の流れとそれを受け取った人のひも付け、名寄せが簡単にできるようになるからです。また、本名や素性を隠したまま副業にいそしむことも難しくなりそうです。マイナンバー制度がはじまれば、会社はアルバイトも含め て、給料を払う従業員の個人番号を集めなくてはなりません。その際には、運転免許証などによる身元確認と個人番号確認という厳格な本人確認を行なう必要があります。そうなれば、あまり他人に素性を知られたくない人が集まりやすい商売に影響が出ると考えられます。 それ以外にも、マイナンバー制度導入により影響があるのは、厚生年金保険の加入を逃れている中小零細企業です。 厚生年金は、従業員が5人以上いるサービス業以外の個人事業所や、法人事業所が強制加入となる公的年金制度。しかし、従業員と折半で負担する保険料の負担を免れようと、加入逃れを決め込む中小零細企業も多い。しかし、マイナンバー制度で、従業員の源泉徴収票に個人番号と法人番号が入れば、厚生年金の未加入企業かどうか一目瞭然になります。 ただ、業績が芳しくないために、保険料を払いたくても払えない中小零細企業がいることも事実。そういう企業に対して、一律で強制的に保険料を集めれば倒産が相次ぐことになり、現実的ではない。逆に言えば、マイナンバー制度で見つけやすくなった、保険料を払えるのに払っていない企業が狙い撃ちにされることになるでしょう。 このように、いままでうやむやだったことを白日の下にさらす制度であります。 【レジャーホテルへの影響と留意すべきポイント】 ●レジャーホテル業界における対応 マイナンバー制度導入による影響の大きい業界として、小売り・外食産業などが言われますが、レジャーホテル業界も影響の大きい業界に入るのではないでしょうか。 その理由としては、パート・アルバイトなど多様な人が多数働いており、短期間での出入りが激しいことがあげられます。さまざまな雇用形態の方々も、直接雇用であれば、マイナンバーの手続きを行なう必要があります。一人ひとりに通知カードと身分証等や個人番号カードを提出してもらわなければなりません。 とくに問題となるのが、身分証です。たとえば、免許証やパスポートを持っていない人については、別の書類を用意する必要があります。必ず「名前と住所又は生年月日の記載」の書類が必要になります。 レジャーホテル業界では、人の入れ替わりが頻繁にあります。数か月働いてやめてしまった人でも、源泉徴収票の都合から、マイナンバーの手続きが必要になります。このため、会社は従業員のマイナンバー情報を大量に取扱い、手続きする必要が出てきます。最近では外国人の従業員の方も増えているようですが、彼らにもマイナンバーが指定され、通知カードが届きます。外国籍であっても必ず マイナンバーの手続きを行なよう指導する必要があります。 世の中には住所を隠したい人、理由があって住所がない人もいます。家庭内暴力(DV)でシェルターに保護されている女性、住民票を持っていない日雇い労働従事者、借金で夜逃げした人など事情のある人です。マイナンバーは住民登録と関連付けられているために、事情があって居場所を知られたくない人は、マイナンバーを貰えないため、行政のサポートを受けられないという不安をもたれ るかもしれませんが、このようなケースも想定されているので、市区町村等の窓口で手続きの相談に乗ってくれるようです。 実務上の問題点として従業員や外部の対象者に番号の提供を拒否された場合は、制度の趣旨として、番号の提供が義務づけられている旨を説明し、そのうえで提供を受けられない場合は、これらやり取りの経緯を記録・保存して、番号を記載できなかったことが単なる義務違反ではないことを役所に説明できるようにしておくとよいでしょう。 利用拡大に向け、まだまだ課題が山積みのマイナンバー制度。最初は手間がかかる手続きをしなければならないため、面倒かもしれません。また、アメとムチで、最初はムチが目立つような気もします。しかし、使いはじめると、いろいろなサービスが実現することになり、いままで以上に暮らしやすくなるとよいですね。 今後も発刊ごとに、追加してご紹介いたします。 佐々木税務会計事務所 【対応地域】 全国のラブホテルに対応いたします。 〒107-0061 東京都港区北青山3-5-14
「マイナンバー制度」の概要とレジャーホテル経営者が留意すべきポイント
